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はじめに
二項定理は非常に汎用性が高く様々なところで顔を出す定理です。今回はその二項定理と、その一般化である多項定理について述べます。
※ ここで $\dbinom{n}{k} = {}_n \mathrm{C} _k \equiv \dfrac{n!}{k!(n-k)!}$ です。
\begin{eqnarray*}
\definecolor{myblack}{rgb}{0.27,0.27,0.27}
\definecolor{myred}{rgb}{0.78,0.24,0.18}
\definecolor{myblue}{rgb}{0.0,0.443,0.737}
\definecolor{myyellow}{rgb}{1.0,0.82,0.165}
\definecolor{mygreen}{rgb}{0.24,0.47,0.44}
\end{eqnarray*}
二項定理について
まずは具体的に $(x+y)^{n}$ を展開してみましょう。
(x+y)^{2}&=&x^{2}+2 x y+y^{2} \\
(x+y)^{3}&=&x^{3}+3 x^{2} y+3 x y^{2}+y^{3} \\
(x+y)^{4}&=&x^{4}+4 x^{3} y+6 x^{2} y^{2}+4 x y^{3}+y^{4}\\
&\vdots&
\end{eqnarray*}
ここで各項 $x^ay^b$ の係数は「二項係数」と呼ばれています。そしてこの二項係数の現れ方には規則性があり、それを表現したものが「パスカルの三角形」です。
このようにパスカルの三角形の $n$ 行目が $(x + y)^n$ を展開した時に現れる二項係数を表現しています。
それでは、二項定理(☆)を導いてみましょう。ここでは組み合わせの議論をつかいます。
まず、展開する式を
(x+y)^{n}=\underbrace{(x+y)(x+y) \cdots(x+y)}_{n \text { factors }}
\end{eqnarray}
と記述します。この式を展開した時に現れる項 $x^k y^{n-k}$ の係数は……
(1)右辺の $n$ 個ある $(x+y)$ から、
$x$ を $k$個、$y$ を $n-k$個取り出す組み合わせ: $\dfrac{n!}{k!(n-k)!} = \dbinom{n}{k}$
と等しいです。
具体例
・$(x + y)^5$ を展開した時、$x^3y^2$ の係数を考える。
(x + y)^5 = \underbrace{(x+y)(x+y) \cdots(x+y)}_{5 \text { factors }}
\end{eqnarray*}
5個の $(x + y)$ から $x$を$3$個、$y$を$2$個 選ぶ組み合わせは、
\binom{5}{3} \cdot \binom{2}{2} &=& \frac{5!}{3!(5-3)!} \cdot \frac{2!}{2!(2-2)!} \\
&=& \frac{5!}{3!(5-3)!} = 10
\end{eqnarray*}
であるから、$x^3y^2$ の係数は $10$ である。
したがって、
(x + y)^n &=& x^n + \binom{n}{1}x^{n-1}y + \binom{n}{2}x^{n-2}y^2 + \cdots + \binom{n}{n-1}xy^{n-1} + y^n \\
&=& \sum_{k = 0}^{n} \binom{n}{k}x^k y^{n-k}
\end{eqnarray*}
が成り立ちます。
多項定理について
二項定理の一般化として多項定理を考えてみましょう。
少し複雑ですが、要するに
$\left(x_{1}+x_{2}+\cdots+x_{m}\right)^{n}$ を展開した時の項: $x_{1}^{k_1}x_{2}^{k_2}\cdots x_{m}^{k_m}$ の係数は以下である。
\begin{align*}
\dfrac{n !}{k_1!\ k_2!\ \cdots\ k_m!} \tag{♡}
\end{align*}
※ここで、$\ \ (k_1 + k_2 + \cdots + k_m = n)$
ということです。
ここでも組み合わせの議論をつかって、$(\heartsuit)$ を導いてみましょう。
展開する式を
(x_1+x_2+\cdots+x_m)^{n}=\underbrace{(x_1+x_2+\cdots+x_m)\cdots(x_1+x_2+\cdots+x_m)}_{n \text { factors }}
\end{eqnarray}
と記述します。この式を展開した時に現れる項 $x_{1}^{k_1}x_{2}^{k_2}\cdots x_{m}^{k_m}$ の係数は……
(2)右辺の $n$ 個ある $(x_1+x_2+\cdots+x_m)$ から、
$x_1$ を $k_1$個、$x_2$ を $k_2$個、$\cdots$ 、$x_m$ を $k_m$個取り出す組み合わせ
と等しいです。
具体例
・$(x + y+z)^6$ を展開した時、$x^3y^2z$ の係数を考える。
(x + y+z)^6 = \underbrace{(x+y+z) \cdots(x+y+z)}_{6 \text { factors }}
\end{eqnarray*}
6個の $(x + y+z)$ から $x$を$3$個、$y$を$2$個、$z$を$1$個 選ぶ組み合わせは、
\binom{6}{3} \cdot \binom{3}{2}\cdot \binom{1}{1} &=& \frac{6!}{3!\textcolor{myred}{\cancel{\textcolor{myblack}{(6-3)!}}}} \cdot \frac{\textcolor{myred}{\cancel{\textcolor{myblack}{3!}}}}{2!\textcolor{myblue}{\cancel{\textcolor{myblack}{(3-2)!}}}} \cdot \frac{\textcolor{myblue}{\cancel{\textcolor{myblack}{1!}}}}{1!}\\
&=& \frac{6!}{3!2!1!} = 60
\end{eqnarray*}
であるから、$x^3y^2z$ の係数は $60$ である。
$n$ 個ある $(x_1+x_2+\cdots+x_m)$ から、
$x_1$ を $k_1$個、$x_2$ を $k_2$個、$\cdots$ 、$x_m$ を $k_m$個取り出す組み合わせは、以下のようになります。
\begin{eqnarray*}
&&\binom{n}{k_1} \cdot \binom{n-k_1}{k_2} \cdot \binom{n-k_1-k_2}{k_3} \cdots \binom{n-k_1- \cdots -k_m}{k_m} \\
\\
&=& \frac{n!}{k_1!\textcolor{myred}{\cancel{\textcolor{myblack}{(n-k_1)!}}}} \cdot \frac{\textcolor{myred}{\cancel{\textcolor{myblack}{(n-k_1)!}}}}{k_2!\textcolor{myblue}{\cancel{\textcolor{myblack}{(n-k_1-k_2)!}}}} \cdot \frac{\textcolor{myblue}{\cancel{\textcolor{myblack}{(n-k_1-k_2)!}}}}{k_3!\textcolor{myyellow}{\cancel{\textcolor{myblack}{(n-k_1-k_2-k_3)!}}}}\cdots \frac{\textcolor{mygreen}{\cancel{\textcolor{myblack}{(n-k_1-\cdots -k_m)!}}}}{k_m!(n-k_1-\cdots-k_m)!} \\
&=& \frac{n!}{k_1!\ k_2!\ \cdots\ k_m!} \cdot \frac{1}{(n – (\underbrace{k_1+ \cdots + k_m}_{= n}) )!}
\end{eqnarray*}
したがって、$(\heartsuit)$ が成り立ちます。